2019年9月26日
陶芸家ご紹介⑬
柳原睦夫先生(MUTSUO YANAGIHARA)
「キ・オリベ花喰笑口瓶」1992年 高知県の医者の家に生まれ、思わぬ形で陶芸と出会い、 師である富本憲吉先生を始め、同級生の森野泰明氏、先輩の加守田章二氏、そして熊倉順吉氏、八木一夫氏、鈴木 治氏といった走泥社の面々に接しながら学生時代を過ごされた柳原先生。当時の日本の感覚では想像できない造形・色彩・模様の作品を発表されています。
先生の造形の原点は、ロクロで成形されたパーツを組み立て、またその 一部分が強調されている須恵器にあります。フォルムや色彩は変化し ても、「うつわ」と「オブジェ」、「伝統」と「革新」といったものをを “まぎらかし”、ユーモアを含んだ批評精神を有する作品を作り続けていらっしゃいます。
柳原先生からアマチュア陶芸家へのエール
① 繰り返し沢山作ること。ほんの少し辛抱したら面白くなるし、反復したら練習になります。
② 使う喜びを味わう。自作の器を家庭で、また仲間同士で使って大いに話題にしてください。
③ やきものの鑑賞。 関心を持つと、美術館の作品や骨董品の見方がより深まります。
④ 蒐集。作る一方で集めると面白い。偉大なコレクションも一人の蒐集から始まっています。
1934年、高知県生まれ。京都市立美術大学で陶芸を学び、富本憲吉、近藤悠三、藤本能道 各氏の指導を受ける。専攻科を修了後、助手として勤める。66~72年にかけてアメリカの3 つの大学での講師や、米国政府文化芸術振興助成基金で3回の渡米。84年には大阪芸術大学 の教授に就任。現在、大阪芸術大学名誉教授
(以下、先生が寄稿して下さった 文章です。)
「私の陶芸履歴書」
私の陶芸の原点はきものの「うつわ」にあります。しかしここで誤解のないように断っておきたいこととして、「うつわ」は用途や機能に束縛される日常の器物だけを指すものではないということです。陶芸家によって作られる高価な割烹食器だけでもありません。内部がうつろな陶器の形、壺のような、深い鉢のような、そんな「うつわ」を頭に描いて下さい。形の中に内部の暗い闇を秘めた不可視な空気感さえも私はイメージの、あるいは観念の「うつわ」と認識しています。ここ迄「うつわ」を拡大すれば、ほとんどの陶器は「うつわ」と、模様や形の変化に見られる「造形」で成り立っていると考えていただけると思います。両者は二者択一するのではなく共存の関係にあると言えます。
「風の器」1981 年 1960年頃日本の陶芸界には陶芸の革新運動が起こり、「うつわ」は伝統的、「造形」は革新的とみなされ、「造形」のみを推し進める傾向が顕著になりました。用途や機能を有しない置物的陶芸品をとりあえず「オブジェ」と総称して美術館や画廊に於て拡散していきました。
この傾向は世界的な広がりを示していて、日本では豊か過ぎる陶芸の伝統の桎梏から逃れるために、他方、アメリカから伝播した陶芸の彫刻、クレイワークの影響によるものもあります 。当時私はアメリカを制作の場にしていたので、日本のオブジェ陶芸とアメリカの clay work の違いをつぶさに観察することが出来ました。
アメリカでは陶芸の日常品に関する形而上的な議論はありません。コーヒーカップ、肉皿 等々を鑑賞の対象にする習慣は皆無です。つまるところ『茶盌』の世界がないのです。陶芸 の実用品はクラフトデザインの範疇で、素材の個性や機能性、消費財としてその価格が適正 であるかどうかであり美術館で論じられることは少ないと思います。
したがって「うつわ」としての陶芸は貧弱です。実はアメリカで見られるすぐれた実用の器はプラスティックに関するものです。
「縄文式・彌生形變壷」2001年 この新しい素材に対する関心は高く、したがって美しく魅力的な日常雑器は至る所に存在します。今日の日常生活の文化度の高さは世界有数と言え、アメリカはやはり新しい国です。しかし今プラスティックその ものが工芸素材として批判の対象となっていますので、先行き
は見通せません。
陶芸には不可避の大仕事、窯での「焼成」が残っています。土は白熱の炎の中で焼きつくされ土に含有されているすべての物質は無機的な『玉』に転換される。私の作品は窯の中で灼熱の焔に晒され、「うつわ」と「造形」はただただひたすら同一化し、やきものとして蘇生します。破壊と再生。
この工程において私は死生のイメージを見ることがあります。粗野になるまいとしてもかなわない激しい労働です。1400℃、所要時間18時間の長丁場で、この時「造形」は「うつわ」に確かに支えられ、私の陶芸は成立します。
「風の館」2018 年 「彩陶・反器」2004 年 拙文を茶の湯の祖『村田珠光』(1423-1502年) の有名な「心の文」の一節を引用して締め括りたいと思います。
“この道の一大事は、和漢のさかいをまぎらかすこと肝要肝要、ようじんあるべき事也”
「うつわ」と「造形」、形の内部と外部、和と洋、日本とアメリカ、
最近は日本と韓国、これらの関係 をもう一度根本から見直し、さかいをまぎらかすこと肝要肝要。*作品画像は、畠山崇氏、来田猛氏 撮影
柳原睦夫先生 展覧会情報
2020年秋 | 「柳原睦夫展」(仮) | 大阪市立東洋陶磁美術館 |
″ | 「柳原睦夫展」 | ギャラリー器館(京都) |
2019年秋、「第36回 日本陶芸倶楽部アマチュア作品展」の審査員及び講演会講師を務めていただきます。