ざっと40年も前、陶芸を始めてたったの2年目に、まだ陶芸倶楽部の初級・中級コースを終えたばかりだというのに、無謀にも大好きな前田青邨の紅白梅図を扇皿に写してみようと、思い立った。上下左右に放物線を描くように伸び伸びと伸びてゆく枝と、古木の枯れた渋い色合いの大幹は、まだ絵筆を使えないばっかりに、まだ出始めたばかりの筆ペンに鉄を付け、少しずつ濃淡を意識しながら、大胆に描いていった。白梅は白化粧で、紅梅は発色の難しいタンパンで、用心しながら慎重に色を乗せてゆく。左右の隈取りは、左は染付の呉須を、右には青磁釉を吹いて乗せる。そして最後に透明釉を心の中で祈りながら厚く掛けていった。まだ知識も経験もないのに偶然と幸運が見事に重なり合っての大成功だった。長い年月、季節になると必ず好んで店に飾られてきた皿は、大きく割れ、欠けながら丁寧に金継されての再登場です。長くなった陶歴の、なん百もの数にのぼる作品の中でも、僕の最も大事にしている思い出深い作品です。
長山一夫